年末に、図書館で『ヤンコフスキー家の人々』(遠藤公男 著・講談社)という本を見つけました。
背表紙でこのタイトルを見たときは、「ロシア文学かな?」と一瞬思いましたが、本を抜き出して表紙を見たら、とてもインパクトの強い、3頭の虎が足を吊るされている写真が。
「狩猟記ならいまいちだなあ」と思いつつ、子どもの頃、バイコフ著の『偉大なる王(ワン)』を愛読した私としては、この虎の写真が気になりました。


で、中をパラパラと開いて拾い読みをしてみると、どうやらこのヤンコフスキー家の人々、特に三代目のワレリーという人物が、ソ連時代の悪名高い強制収容所、ラーゲリに送られて生き抜いた記述があるらしいと知りました。
(虎の狩猟はもともと、家畜を虎に殺されたので、家畜を守るために始めたものです。)
ソ連に抑留された人たちがどのような暮らしを強いられたのかは、今まで読んだいろいろな本から断片的には知っていましたが、ソ連が自国民を収容したところとは、果たしてどのような環境で、どのような生活を強いられたのか知りたいと思って、この『ヤンコフスキー家の人々』を読んでみました。
読後感は、期待以上でした。
まるで大河小説のような、三代に渡るヤンコフスキー家の人たちやその周辺の人たちに襲い掛かった過酷な運命が描かれていました。
実話です。
そして、この一族は、二代目に当たる子どもたちを、日本に留学させるほど、親日家でした。初代の当主の記述は少なめで、中心となるのは、やはり三代目のワレリー氏の人生です。

本の帯には、「ソ連の独裁権力が生んだ強制収容所という不条理と地獄ー愛と勇気と感動のノンフィクション」とありましたが、その通り。ありふれた「愛と勇気と感動」と言う言葉が本当にぴったりで、他に当てはまる言葉がなかなか見つかりません。
西側というか、日本ならば、ごく当たり前の事業と認められることが、それが当時のソ連では「罪」とされて、強制収容所送りになったのです。それも、一族のうち何人も。
強制収容所に送られなくても、暗殺された人、ソ連の手を逃れて自由な国へ渡ったはずが、不審な死を遂げた人など、本当に恐ろしい事実が生き証人の口から語られます。
それを、著者の遠藤公男さんが読みやすく、物語のような体裁でまとめたのが、この『ヤンコフスキー家の人々』でした。

親日家の一族らしくワレリー氏は、五十年も使わなかった日本語をしっかり覚えていて、著書の遠藤公男さんに、長い物語を詳しく日本語で語ってくれたそうです。
遠藤さんは後書きでそのことに触れていますが、この本の記述が詳細で、まるでその場が目に浮かぶように記されているのは、通訳を介さず、直接日本語で語られたということが、やはり大きな力になっているでしょうし、記述の中に時折挟まれる会話には、心に響く言葉がたくさんありました。
どうやってワレリー氏がこの強制収容所という地獄を行きぬいたのか、興味を持った方は、この本を実際に手に取って読んで欲しいのだけれど、強制収容所は、私からみると「地獄」そのものながら、その「地獄」の中でも信念を持って生きたワレリー氏に、強い尊敬の念をおぼえます。
強制収容所に収容されたせいで、家族は離れ離れになり、多くの悲しみや苦しみを経験しますが、それでも彼は、この本によると、2004年の時点で93歳で、健在でした。

本には、「ワレリー一家の近影」として、再婚した妻と息子と、三人の笑顔の写真が掲載されています。
とても93歳とは思えない若々しい容貌の彼と、人柄の良さそうな息子、やはりソ連のせいで若いときから辛酸をなめた79歳の夫人。
この一枚の写真の奥には、社会の体制に翻弄された一族の歴史があることを考えると、全く面識のない、一読者の私でさえ、感慨深いものがありました。
この三人が優しく微笑んでいることに安堵しました。
狂っていたとしか思えない数々の独裁体制の仕打ちも、ワレリー氏の心を破壊することはできませんでした。その心のあり方に、「偉大」という言葉が浮かびました。

それにしても、よく聞く「白系ロシア人」の意味を、初めて知った本でした。歴史好きで、結構いろいろな本を読んでいますが、この言葉の意味だけは、はっきり知りませんでした。
白系ロシア人というのは、革命前のロシアで事業をしていた人々を指す言葉だったのですね。
日本でなら、単に事業家というだけで済むのに、そのために、命を脅かされ、一家は離散し、財産はすべて取り上げられて。何もあくどいことをして財を成したのではなく、単に事業が成功しただけなのに。
大きな歴史のうねりの前に、人間はなす術もないときがあるけれど、それでもなお、その場でどう対処したか、という事実の羅列に、人間ってすごいとも思いました。

この本の内容は、下手な小説とは比べ物にならないほどスリリングな展開のノンフィクションで、文章自体も読みやすいものでした。少しでもアジアやロシアの近代史・現代史に興味を持っている方には、太鼓判を押して、お勧めします。


本サイト「こども図書館ドットコム」もよろしく。
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背表紙でこのタイトルを見たときは、「ロシア文学かな?」と一瞬思いましたが、本を抜き出して表紙を見たら、とてもインパクトの強い、3頭の虎が足を吊るされている写真が。
「狩猟記ならいまいちだなあ」と思いつつ、子どもの頃、バイコフ著の『偉大なる王(ワン)』を愛読した私としては、この虎の写真が気になりました。
で、中をパラパラと開いて拾い読みをしてみると、どうやらこのヤンコフスキー家の人々、特に三代目のワレリーという人物が、ソ連時代の悪名高い強制収容所、ラーゲリに送られて生き抜いた記述があるらしいと知りました。
(虎の狩猟はもともと、家畜を虎に殺されたので、家畜を守るために始めたものです。)
ソ連に抑留された人たちがどのような暮らしを強いられたのかは、今まで読んだいろいろな本から断片的には知っていましたが、ソ連が自国民を収容したところとは、果たしてどのような環境で、どのような生活を強いられたのか知りたいと思って、この『ヤンコフスキー家の人々』を読んでみました。
読後感は、期待以上でした。
まるで大河小説のような、三代に渡るヤンコフスキー家の人たちやその周辺の人たちに襲い掛かった過酷な運命が描かれていました。
実話です。
そして、この一族は、二代目に当たる子どもたちを、日本に留学させるほど、親日家でした。初代の当主の記述は少なめで、中心となるのは、やはり三代目のワレリー氏の人生です。

本の帯には、「ソ連の独裁権力が生んだ強制収容所という不条理と地獄ー愛と勇気と感動のノンフィクション」とありましたが、その通り。ありふれた「愛と勇気と感動」と言う言葉が本当にぴったりで、他に当てはまる言葉がなかなか見つかりません。
西側というか、日本ならば、ごく当たり前の事業と認められることが、それが当時のソ連では「罪」とされて、強制収容所送りになったのです。それも、一族のうち何人も。
強制収容所に送られなくても、暗殺された人、ソ連の手を逃れて自由な国へ渡ったはずが、不審な死を遂げた人など、本当に恐ろしい事実が生き証人の口から語られます。
それを、著者の遠藤公男さんが読みやすく、物語のような体裁でまとめたのが、この『ヤンコフスキー家の人々』でした。

親日家の一族らしくワレリー氏は、五十年も使わなかった日本語をしっかり覚えていて、著書の遠藤公男さんに、長い物語を詳しく日本語で語ってくれたそうです。
遠藤さんは後書きでそのことに触れていますが、この本の記述が詳細で、まるでその場が目に浮かぶように記されているのは、通訳を介さず、直接日本語で語られたということが、やはり大きな力になっているでしょうし、記述の中に時折挟まれる会話には、心に響く言葉がたくさんありました。
どうやってワレリー氏がこの強制収容所という地獄を行きぬいたのか、興味を持った方は、この本を実際に手に取って読んで欲しいのだけれど、強制収容所は、私からみると「地獄」そのものながら、その「地獄」の中でも信念を持って生きたワレリー氏に、強い尊敬の念をおぼえます。
強制収容所に収容されたせいで、家族は離れ離れになり、多くの悲しみや苦しみを経験しますが、それでも彼は、この本によると、2004年の時点で93歳で、健在でした。

本には、「ワレリー一家の近影」として、再婚した妻と息子と、三人の笑顔の写真が掲載されています。
とても93歳とは思えない若々しい容貌の彼と、人柄の良さそうな息子、やはりソ連のせいで若いときから辛酸をなめた79歳の夫人。
この一枚の写真の奥には、社会の体制に翻弄された一族の歴史があることを考えると、全く面識のない、一読者の私でさえ、感慨深いものがありました。
この三人が優しく微笑んでいることに安堵しました。
狂っていたとしか思えない数々の独裁体制の仕打ちも、ワレリー氏の心を破壊することはできませんでした。その心のあり方に、「偉大」という言葉が浮かびました。

それにしても、よく聞く「白系ロシア人」の意味を、初めて知った本でした。歴史好きで、結構いろいろな本を読んでいますが、この言葉の意味だけは、はっきり知りませんでした。
白系ロシア人というのは、革命前のロシアで事業をしていた人々を指す言葉だったのですね。
日本でなら、単に事業家というだけで済むのに、そのために、命を脅かされ、一家は離散し、財産はすべて取り上げられて。何もあくどいことをして財を成したのではなく、単に事業が成功しただけなのに。
大きな歴史のうねりの前に、人間はなす術もないときがあるけれど、それでもなお、その場でどう対処したか、という事実の羅列に、人間ってすごいとも思いました。

この本の内容は、下手な小説とは比べ物にならないほどスリリングな展開のノンフィクションで、文章自体も読みやすいものでした。少しでもアジアやロシアの近代史・現代史に興味を持っている方には、太鼓判を押して、お勧めします。
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